ウォークマンを持っているけど各種機能を持て余しており、しかも機能自体の効果がよくわからない。特にバイナルプロセッサーやDCフェーズリニアライザーの実際の効果ってなんなの?という方も多いと思います。
筆者も最初は機能をオンにしても、確かに音が変わったもののその良さや効果を言葉に表すことが出来ませんでした。
そこで、バイナルプロセッサーを生み出した元SONYのエンジニアである、かないまる氏のブログや過去のインタビュー記事を読み漁り半年聴いてみて、ある程度理解が進んだと思うので今回の記事にしました。
別に記載しますが、同氏のブログやインタビューからの引用、ざっくりした要約、を元にした素人の個人的見解です。記事を読んでもっと知りたいと思った方は、かないまる氏のブログを読んで下さい。
バイナルプロセッサーとは
アナログレコード特有の音響現象をDSP技術により再現することで、デジタル音源をヘッドホンで聴く場合もアナログレコード特有の豊かな音の再生を可能にする技術です。
好みに合わせて「アームレゾナンス」「ターンテーブル」「サーフェイスノイズ」と、3種類の効果を最適に組み合わせた「スタンダード」いずれかの効果を選択してON/OFF設定が可能で、現行のWALKMAN全機種に搭載されています。
主な機能
トーンアームレゾナンス
レーコードプレーヤーのトーンアームの低域の共振の波形を再現することによって、常にスピーカーのスタンバイ状態を整え「初動感度」を上げる機能です。
およそ、10Hz前後なので人の聴覚では認識できませんが、常に波打った波形がベースになっており、スピーカーユニットを微振動させています。
感覚的には、よ〜いドン!で流れるプールで泳ぐか、普通のプールで泳ぐかの違いです。トーンアームレゾナンスは流れを生み出し続けることによって、必要な初動を支えているのです。
その効果としては、低音の伸びが良くなり、音と音の間接部分を表現する性能が上がり、広がり感(残響)もより感じるようになります。
サーフェイズノイズ
アナログレコード特有のサーッというノイズを再現したもの。
こちらも最初から、中域から高域への波形が存在することによって高域の初動感度の向上が望めます。サラサラした音になりボーカルの声が聞き取りやすくなる効果があります。
そして、アナログレコードのパチッ、コチッというノイズも再現され、追加されています。あくまで曲の邪魔にならないように、かなり少なめにさりげなく入っているそうです。
ターンテーブル
良い部屋、良いプレーヤーで聴く音楽は、どうしてもデジタルでは再現できない一体感や独特の感情がこもります。それは、部屋が響き、プレーヤーもスピーカーも振動することによる効果です。
そのような、レコードプレーヤーの機械振動(盤振動)の一種をデジタル波形として再現しています。この部分に関しては、曲に対する「お化粧」に近い機能だと説明されています。
音源に沿って下支えをするような波形になっているので、音圧を上げた上で、アナログプレーヤーの雰囲気を出す機能と考えるのが正しいのかもしれません。
物理現象と雰囲気
アナログレコードを再現する、というこの機能はノスタルジックに訴えかける、いわば「曲を劣化させる」ようなものではありません。
あくまで物理現象が主のデータを元に論理的に作られた機能です。
かなりわかりにくいと思うので、箇条書きにします。
物理現象
・低域の共振(トーンアームレゾナンス)
・中音域から高域までの共振(サーフェイスノイズ)
物理現象×雰囲気
・盤振動を再現した下支えの波形(ターンテーブル)
雰囲気
・スクラッチノイズ(サーフェイスノイズ)
このような内容になっており、あくまで追加されるものであって、原曲に手を加えたり特性を変えるような処理はされていないようです。
心地よい音とは
良い音とはなんでしょうか?
クリアな音?解像度?迫力?低音?
このような疑問に対して
「まぁ、一旦置いといて音楽を楽しもうよ」
と諭されているような気分になる機能です。
確かに音のクリアさは少し失われ、分離感も損なわれ、クールで解像度の高いキレキレな音とは方向性が変わります。元々ナチュラルな音である、WM1AM2では顕著です。
ソースダイレクトでは、生の音に近い解像度を味わえる本機ですが、どうも解析的な気分になる瞬間があるといいますか、あーこの音よく出てるな、分離感がよくてステレオ感が強くてすごいなぁ、とか。
しかし、それは本当に音楽を楽しめているのか?音楽を楽しむってなんだ?
そう立ち返った時、バイナルプロセッサーはそのような生の音を【額装】して人の耳に届け音楽を楽しむという原点に立ち返らせてくれる、唯一無二の機能なのだと思います。
効果をまとめると・・・
※個人的感想
・音圧が上がる
・残響感が増す
・ボーカルの伸びが良くなり情感が増す
・全体的に滑らかにマイルドになる
です。
バイナルプロセッサー単体でも十分効果を得ることが出来ますが、DCフェーズリニアライザーと併用するとさらに狙った効果を出せるのでおすすめです。
DCフェーズリニアライザー
低域の位相特性を伝統的なアナログアンプの特性に近づける機能です。
こちらも現行のWALKMANに搭載されています。
タイプAからタイプBまで6段階の調整が出来ます。
機能についての理解
一般のアナログアンプは低域に向かって位相が進みますが、S-Master方式の位相はフラットです。本来であればフラットが理想なのですが、主な音楽制作の環境がアナログアンプなので、意図的ではなくともアンプの低域位相が進んだ状態を前提に作られており、本来の意図した音で鳴らせない現象が起きる。
そこで、デジタルアンプの低域の特性をアナログアンプと同じ形にするために作られた機能です。
??
理解できるが、意味がわからない。筆者は混乱しました。
なので、簡単にこう考えることにしました。
【合う曲には合う、低音の雰囲気を変更する機能】
実際には、タイプAでは超低域をカットする効果(スタジオ録音に近づく)。タイプBは逆に増幅させる効果。
と考えても良いかと思います。
技術的には、タイプBはより効果を強めるために50Hz以下でいったん位相を数度遅らせるフェイクを入れて効果を強調しているので、エフェクターに近い物だそうです。
それを踏まえて、おすすめの設定や効果の違いを書きたいと思います。
おすすめ設定
タイプA(STANDARD)×バイナルプロセッサー
タイプAのSTANDARDは単体では、超低域をカットし、バーナード・エドワーズよろしくノリの良い、ベースラインが浮き出てくるような効果が得られます。
バイナルプロセッサーを併用することで、キック感も強くなり情感も出るのでクラシックから、ダンサブルな現代曲、ミドルテンポの曲に合います。
残響感を活かして、キラキラなエフェクトが多い曲も楽しく聴けます。
おすすめ楽曲
・クラムボン【シカゴ】
・ウマ娘【KIRARI MAGIC SHOW】
・デリシャスパーティプリキュア【ココロデリシャス】
・Symphonic Suite "kiki's Delivery Service" 久石譲【5, V.A Propeller Driven Bicycle-I Ccan't fry!】
タイプB(LOW)×バイナルプロセッサー
タイプBは低域を増幅させ、迫力のある低音と、曲の幅を広げるような効果が得られます。グッと低域に寄った部分と高域がはっきりと分かれる印象で、バイナルプロセッサーを併用することで音の繋ぎが良くなり、空間が広がります。
ロックや、重厚なクラシック、空間を意識したローテンポな曲にも合います。
アングラ寄りなハウスも雰囲気が出て良い感じです。
おすすめ楽曲
・結束バンド【あのバンド】
・サクラ大戦【夢見ていよう】
・Nicole Moudaber 【See you Next Tuesday】
・ヨハン・シュトラウス【ラデツキー行進曲】
DSEEとの併用
個人的には、DSEEは独立した機能でダイナミックレンジを広げ微細音、高域が強化されるので、バイナルプロセッサーとの効果が被っており、せっかくクリアになった音をアナログ風にもしてしまうので、両方の効果を実感しづらくなると思っています。なので、DSEEとDCフェーズリニアライザーは併用可ですが、DSEEとバイナルプロセッサーの併用はおすすめしません。
まとめ
最初はなんかわからないけど、良く聴こえる、なんでだろ・・・という疑問から、色々なことを調べていく上で、結果的には生みの親であるかないまる(金井隆)氏を追いかける形になりました。
そして、2022年7月2日にお亡くなりになっていたことを、後に知りました。
筆者がWM1AM2を購入したのが、2022年11月2日だったのでちょうど購入から3ヶ月前ですね。
筆者はコーヒーを飲みながらリラックスし、バイナルプロセッサーで音楽を聴く。
そのような、毎日のひと時にふと寂しい気持ちになるのです。
同氏の残したブログやインタビュー記事は残っていますので、ウォークマンをお持ちの方は一度覗くことをおすすめします。
そこには気負わず、オーディオを追求する一個人の姿があり、オーディオへの理解を深めるヒントが無数にちりばめられています。
この場を借りて改めて、同氏に敬意と弔意を表します。
【引用参考】
本家・かないルーム(現在閉鎖)
アナログレコード特有の音響効果をデジタルで再現 音の豊かさや広がりを感じる「バイナルプロセッサー」 | ソニー
※追記2024/1/24
本家かないルームの閉鎖を確認しました。